〜Archive 季節便り 2016〜

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・August 2016・October 2016・December 2016

February 2016

佐久市内の印刷所に打ち合わせに行った日のこと…印刷技法についてみんなで話が盛り上がっていたら 
そこの工場長が1枚のパンフレットを持って来て「この刷り工房は良いから訪ねてみたら…」  
帰り途 成田山薬師寺(ぴんころ地蔵尊がある)のわきを通ったら 境内の木陰に白いアジサイが点々と何株か咲いていて 
とても美しく光って見えました  どうしても このアジサイが描きたくなり 
家に着くと 急ぎ またすぐアジサイの所に戻りました 
青みがかった白い花は 清々しく お地蔵さまのように見えます  
工場長に紹介された工房は このアジサイのところから近かったので ついでに覗いて見ようと思い立ちました  
案内されて刷り機などのある広い工房に入ったら 私自身の内から湧き上がる言葉にはならない ある感覚があり 
「どうしても この場所と関わりを持ちたい!」「ここで 私の絵を版画にしてみたい」と 思ってしまったのです  
この工房で次ぎ次ぎと版画を作りました 
そしてこの版画を大勢の方々に見て頂く場所を…
ということで 旧軽井沢に画廊を開くことが急にき
まりました  画廊の運営は 私の次男が引き受けてくれました 
4月8日開廊を予定しているので 今 春が来る日を待ち焦がれています

不二子
PHOTO : Fujico


写真は画廊近くの風景です
〈橋本画廊 軽井沢〉 今春の開廊に向けて準備をすすめております


April 2016

3月中旬のある朝 陽が当たる場所の雪が消えて「なんだか枯草が緑色になったみたい!」と興奮して云ったのに
次の朝は また雪がその上にうっすらと乗ってしまい…ガッカリ
その後は急に暖かい日が数日続き と 突然道路わきの南斜面が水色の小花畑になりました
そのわきを見たら 小さな白い花や黄色 赤紫色の小さな小さな花々が一斉に咲いています
もうしばらくすると ずっと力強いタンポポやハルザキヤマガラシなどが来て
あの可憐な水色の小花達は 来年の早春まで忘れられてしまうのです
狭い同じ土地に様々な草達が仲良く共存していることに 私は毎年 繰り返し心暖まります

雪景色だった1月~2月は夜ごと雑誌の中にキレイな色彩を探し歩いて過ごし
花屋さんの花を絵具のように使って描いていました

そして その後 東京(成城)の庭に咲いたクリスマスローズを沢山頂く機会がありました
久し振りの天然物に大喜びしてイッキに何点も描きあげました

不二子
PHOTO : FUJICO/Dai Hashimoto


June 2016

日暮れの時 一点の絵を描き上げると
「あー 今日も描けた!」と満足し
夜寝る時には「あと何点描けるのか?」 「今日の絵が絶筆になるのか?」と毎回思い…
夜中胸が痛くなった時には その日描いた絵を眺めて「あ!サイン入れるの忘れた」と気付き…
それ以降は 描き終えるとすぐに 今使っていた筆でサインを入れてしまうことにしました

息子が突然帰って来て画廊を始めることになり…
私の意識にも大きな変化を起こさせました
今回息子が書いた《画廊便り》(橋本画廊 軽井沢のページ)を読んで思い出したことがあります
小学生の受業参観に行った時…
教室の後ろに友達の絵が貼ってあり みんな 男の子か女の子を証明写真のように描いてあります その中に一点だけ違う絵がありました
教壇がありその上に椅子が二脚 男の子と女の子が座っています 女の子は怖そうに椅子の脚を手で掴んでいるのです

絵の作者はうちの息子「橋本 大」でした
私はうれしくなって 密かに ひそかに笑いました
今 私は 息子が自慢して多くの方々に作品をご紹介出来るような絵描きになりたい と思っています。

不二子


August 2016

最近 引越しをしました

新しい住まいのすぐ近く 木陰の続く道のわきに 薄いブルーのアジサイが幾株も咲いて・・・
「これ描きたい!」頭の中には もう 清々しく揺れているアジサイを大きなガラスに活けた絵が見えます
早く 早く 描き始めたいと思うと焦り・・・

そして描き上がった時には 最初 頭の中に妄想した映像とは違う一点の絵が目の前にあるのです

絵のアジサイは もう私から離れた存在となり きのう はじめて出会って「キレイ!」と感じた あのアジサイとの関係もありません

こんな家に住んでみたい と空想したことと 設計図を見て予想したこととも 現実に出来た家は違うものでした

私の妄想だけではなく 一緒に住む息子の想いや 設計士の思うことも加わって家は出来たのですから・・・

ここが私の部屋で「今夜から このベッドで寝るんだぞ」と自分に云ってみたけれど・・・なかなか実感が付いて来ません
一週間を過ぎて やっと自分の居場所になったけれど・・・ もう 次ぎに住みたい家の平面図 立面図を頭の中に描いています

不二子


October 2016

10月19日からはじまる丸の内丸善での個展準備に追われています

昨年の個展以降に描きためた作品を発表できる"場"なので私の暮らしの中心にあり続けていることです

「今なにを描きたいのか?」「どんな構図や色彩が〈今という時〉にピタッと来るのか?」
〈良い考え〉や〈受けそうな思いつき〉を出来るだけ排除するように心がけて感覚を作品作りに集中させるようにして来たつもりです

私が主催する個展会場にはかならず居るようにして 来場してくださる方々をお迎えして来ました
でも今年は「私は個展会場に行かない!」と決めました

大勢の方々に個展のご案内状をお送りしているので不測の事故や天災については いつも不安がつきまといます 
それで気休めのように会場周辺を歩き回って下見をしたりしていました

今年は81才を過ぎ脚が弱くなっています

もしもの時 避難誘導のお手伝いどころか 周囲の方々のご迷惑になると思うので会場に居ることをあきらめました

毎年いらしてくださっていたなつかしい方々にお会い出来ないこと とても残念です

不二子


December 2016

今年6月に移った住まいは 東南に広いガラス窓があり 狭いテラスの前面は3mの石垣で その下は林です

ドングリのなる木と栗の木は深い緑色だったのに 黄色になり 茶色に変わって 今その葉はボタン雪が降るように散っています

地面は羽毛布団を敷きつめたようで 暖かそうになりました

見えなかった青空は日に日に大きくなっています

最近 老年であることを責められることが数回続き 木の葉が落ちる様子は私自身に重なり過ぎます

霜がおりたので 走り廻って草花を採る楽しみも なくなりました

暖かい布団の中にもぐり込んで 冬の間 どんな絵を描こうかと何点もの出来上がった絵を妄想している時間が現実にピッタリとした実感があり 
起きて動き廻っている時間は夢の中にフワフワと居るような感じがします

これは 今 はじめて知った感覚で「寝たきり老人」も悪くないなと思いはじめていて

ぶ厚い枯葉の下に生きている虫達や草の芽を身近かに思います

新しい年が無事でありますように

不二子