〜Archive 季節便り 2023〜
February 2023





私より少し年上の友人から聞いて 今も忘れられない話があります
彼女の父親は満鉄の仕事をしていたので 敗戦の時 彼女達は満州の最北端にいたとのこと
戦争終結の直前 河の向こう岸にロシアの戦車が沢山集結し
敗戦と同時に河を越えて来て 父親達は拉致され 何の消息も無い儘になってしまったそうです
母親 彼女とその妹は夜だけ歩いて やっと引き上げ船に辿り着き 日本に帰り
母親の実家に向かう汽車に乗ったのに「日本に居る」ということが どうしても実感出来ず…
ただ車窓から景色を眺めていたら 農家の庭先に柿が実っているのを見て その瞬間「日本に帰った」と気付いたそうです
農家の庭にある朱色の柿を見る度に この話を思い出します
今 私は 里山の風景を眺めていることを幸せに思い この景色が私達の心の平安にとても大切なものだと思うのです
今年は「淺間山麓」に加えて「里山便り」も沢山描こうと思っています
2023年が去年より良い年になりますように
不二子
April 2023






6月14日開催の小諸高原美術館展の時までに画集-Recollection-が出来ることになっています
出版するのは信濃毎日新聞社でその編集者が題名も考えました
本にかかる帯に書かれたキャッチコピーは-浅間山麓の草花があなたの記憶の引き出しをそっと開ける-
絵を描くことは 今まで見た映像の記憶を辿る作業でもあると思っています
子供の頃の思い出はキラキラと美しい色彩ですが
大人になって行くにつれ喪失感 怒り 後悔や不満などの記憶ばかりが多くなり 暗いものになっています
画集の表紙カバーは水仙の絵ですが本体の表紙は水差しに水だけが入った絵-空っぽに水差しに私の虚しさを注ぐ-が刷られています
私は繰り返しガラスの水差しに水を注ぎ そこに様々な草花を活けて描きます
今度こそ満足感を味わえるかと期待しますが出来上がった絵を見てヨシ!と満足するのはホンの一瞬です そしてまた描きます…
季節は着実にその時を刻みまた春が来ました 楽しいことが沢山ありますように
写真/FLORO CAFE 小諸 https://flower-field.co.jp/#
撮影/fujico
June 2023

ウチから歩いて行ける所に 私の絵とガーデングッズを置く店が出来ました
「みかげ茶屋」と云う元レストランで私も好きだった場所です
この企画を頂いた時 最初に思ったのは母から聞いた話でした
母は老後一人暮らしだったので「外出しないと一日中声を出す事が無いから
食べ物も買い置きをしないで 洋服を着替え
牛乳一本でも買いに出掛ける様にしているの」…
家から井の頭公園を抜け吉祥寺まで歩いていた母を想像しました
住まいの近くにチョット行って見たいと思える様な
居心地の良い場所があってそこに行き
誰かとチョット話すことも出来たら私が楽しいなと気づいたのです
今 私の絵もギャラリーみかげ茶屋の 窓と窓の間にある壁に掛けられて
画廊の壁に居た時よりも居心地良さそうにしています
庭伝いの隣ではコーヒーや昼食も頂け ワンちゃんも一緒 OKです
不二子
August 2023






レンゲツツジを浅間山から頂き描きました
この花は戦争中の疎開先で本当に美しいと思い続けた花で 仮住まいの裏にはくぬぎ林が広がり
その中に朱や黄色のレンゲツツジが咲いていたのです その後東京に戻り この花のことは長い間忘れていました
レンゲツツジは幹に毒を入れているので鹿に食べられず どんどん勢力範囲を広げているそうです
二百年も生き続けている樹もあるとのこと
私は「ご高齢なのにすごいですね」とか周囲からよく云われているけれど レンゲツツジと比べたら恥ずかしいものです
明日はどうすべきか?これから先どうやって暮らしを立てていけば良いのか?不安な気分で椅子に座り
窓の外にある樹を眺めていると安心感が心の底にスーッと広がります
なぜ 樹や森を眺めていると気分が安定するのでしょう?
彼等は“土”だけを使って成長したり体中に毒を作ったりし そして同じ場所に腰を据えて生き続けます
樹々や草花を尊敬し大切にして行きたいと切に思いながら 次ぎ次ぎと描き続けています
不二子