軽井沢だより

 

S様へ

 毎年 恒例の個展に向けて 体力ギリギリで描き続けていらっしゃるのだろうとお察ししています

 私の方は 丸善個展の準備が終わり バタッとダウン 3日間 ただただ眠りました まだ いささか虚脱状態の中に居ます

 制作最終の時期に 軽井沢は台風のひどい被害を受けました 唐松、白樺、ニセアカシアなどの美しい林が あちこちで消滅し 道路は倒れた唐松や電柱で 封鎖され 私の住まいも 5日ほど 陸の孤島のようになりました

 

 先日 今回の個展会場に 香りを漂わせてくださる 調香師の島崎さんが 我が家に来られました 彼の別荘も 夜半 屋根に太い唐松が すごい音を立てて倒れかかったとの事 早朝 外に出たら唐松の香りが空気一杯に広がっていて「森の香りだ」と思われたそうです

 私も 何本も道路をふさいで倒れている唐松の 裂けた幹が発する 美し過ぎる強い香りを「樹の臨終の香り」と感じ その悲痛な様相に涙がにじみました

 以前から 唐松は根が浅いので 風で倒れるから 切ってしまわなければ と言う人が多く 別荘建築ラッシュの中 どんどん切られていました そして そこにこの災害です 今 唐松林は 生き残った樹々も 次の台風でまた倒れるだろうと言う事で 切り倒されています 

 近所のお宅の庭で 地上に突き出てしまって 空をつかもうとしている唐松の根っこの隣に 白いミナヅキアジサイが とても きれに見えます 

 その枝を頂いて帰る途中 道路わきの茂みに 唐松の芽が生き生きとしたグリーンで目を引きました 去年 実生で出たものの生き残りが 元気に育っているのです この唐松の芽も 何本か頂いて ミナヅキと一緒に活けて描いたら「静かな絵」になりました 私は密かに この一点が今年の個展での主役だ と思っています

 Sさん 東京駅をお通りになることがありましたら 私の絵も見にいらしてくださいませ またお会いできることを 楽しみにしています

 不二子

(10月1日)




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更新:2007年10月1日

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